社長、with コロナを生きる⑧
こんにちは。㈱昭和技研工業の岩井です。9月16日(水)に菅新政権が発足、”デジタル庁” 構想を掲げるなど、行政サービスの分野でも『デジタル化』の流れが加速しそうです。日本の産業界も期待する『デジタル化』、つい華やかなソフトウェア産業に目を奪われがちですが、ハードウエアの技術革新なしに その進展は語れません。例えばスマホや5G通信網に必須の半導体、その長くて複雑な生産工程には様々な最先端技術が投入され、どれ一つを欠いても精巧な半導体を作り上げることは出来ません。2019年 7月に半導体原材料 3種類の対韓輸出管理が厳格化され、日韓の大問題に発展したのは ご存知の通り。2020年 9月15日(金)、今度は米国が安全保障上の観点から、米国製の製造装置を使用して作った半導体の中国通信機器大手H社向け輸出を禁止。米国製装置は市場の52%を占有することから、日本・台湾・韓国の半導体サプライヤーの業績にも、今後 大きな影響を及ぼしそうです。
半導体を生産する場合は、高度な製造装置を専門の装置メーカーから購入することが多いようですが、業界によっては自社向けに自ら装置の設計開発を行う会社も有りますし、装置メーカーから購入する場合でも、カタログに記載されている量産品を買うのでなく、一部を特殊な仕様に改造して納めさせる会社も有ります。コスト・耐用年数・機能性・扱い易さなど、何に優先順位を置いてどのような装置を選択するかは、会社の個性が強く現れる部分。どちらにしても、モノづくりに於いて製造装置は非常に重要な要素となります。そんな大切な道具が突然使えなくなったら、皆さんどうしますか?with コロナの今、そんなリスクも考慮しておかなければならないかも知れません。
先月、バブル崩壊以降 連鎖倒産等による影響が深刻になって来たのは、1990年代後半になってからだとお話ししました(勿論、1997年にはアジア通貨危機が有ったように、全てバブルが原因だと言う気は毛頭 有りません)。膨らむ不良債権や伸び悩む売り上げに、弊社も厳しい舵取りを強いられていた 2001年11月、重切削用の大型NC旋盤で定評のあった国内工作機械メーカーD社が、86億円の負債を抱え民事再生手続きを開始したとの一報が届きます。大口径・長尺ワークを高精度に削るには、剛性が高く汎用旋盤の操作性を残したD社のフラットタイプが最適で、大型の設計製作品をお客さまに提供する弊社には欠かせない製造装置。当時 D社の皆さんも再建に向けて痛みを伴う改革を断行なさっていたようですが、最後に納品された一台は主要部材を海外製に置き換えたとかで、その著しく低下した加工精度は我々の実用に耐えません。結果、残された蝋燭の灯火が消えてしまう前に代替生産設備を探さなければならないという、弊社にとっては経営の根幹を揺るがしかねない一大事となったんです。量産機を得意とする他メーカー製のフラット型NC旋盤や、大型正面旋盤のベッドをストレッチしたような特注品を導入するなど、数年間にわたり試行錯誤を繰り返したものの やはり “帯に短し襷に長し” 。その後の景気回復と関係各位の必死の御努力によりD社の業績も向上、品質も改善したから良かったものの、結局 私たちは、D社製に相当する加工精度・操作性を兼ね備えた代替装置を見つけることが出来ませんでした。
「刃物台と往復台に送りハンドルが付いていないと、扱いづらくて仕事にならない」との意見は、当時弊社にも多かった職人気質の従業員特有の我儘だったと思いますが(苦笑)、油圧に頼らず重量物をチャックに咥える技術が熟練を要することは間違いなく、モノづくりは生産設備さえ整えば何とかなるという類の物でもありません。これは恐らくデジタル技術の分野でも然りで、with コロナという危機の時代、ソフトウェアにハードウェアそして人材に於いて、産業競争力を維持・発展させる努力を怠れば、日本という国は間違いなく滅びます。