社長ブログ

しばらくコロナとどう生きる⑧

こんにちは。㈱昭和技研工業の岩井です。白血病の治療の一環として行われる骨髄移植等の造血幹細胞移植で、しばしば問題となるのが拒絶反応。免疫細胞が自己と非自己を区別するための目印となる、HLAの違いによって生じます。白血球の “血液型” と言われる HLA、赤血球にA・B・O型の区分の他にRhプラス・Rhマイナス型の区分が有るのと同様、A座・B座・C座・DR座など複数の区分を持っています。それぞれの区分で数~数十種類の型 (2007年の段階で確認されていたのは、HLA-Aが28種類、 HLA-Bで62種類、HLA-Cで10種類、HLA-DRは24種類、HLA-DQで9種類、HLA-DPで6種類)が有るのに加えて、通常の優性遺伝(最近は顕性遺伝と呼ぶ)と異なり、両親から引き継いだHLAの両方を発現する(両優性)ので、その組み合わせは数万通りに及びます。骨髄移植でHLAが完全に一致するドナーを探すのが難しいのは、それが理由です。

HLAはⅠとⅡの二つのクラス(前述の HLA-A・ HLA-B・HLA-CはクラスⅠ分子、HLA-DR・HLA-DQ・HLA-DPはクラスⅡ分子)に分けられ、クラスⅠ分子については白血球だけでなく赤血球を除くすべての細胞に存在します。それらは細胞の表面に突き出した “マジックハンド” のような形状で、体内に入った病原体や癌細胞等、異物の情報(抗原ペプチド+何らかの情報伝達物質)を免疫細胞に手渡す役割(抗原提示)を果たし、免疫細胞(T細胞)は受け取った情報を元に、オーダーメイドの治療 (獲得免疫)を行います。例えば、癌に侵された細胞のHLAクラスⅠ分子から情報を得たキラーT細胞は、その癌細胞自体を攻撃・破壊します。B細胞が抗体を産出するのは、ウイルスを貪食したマクロファージ(白血球の一種)等のHLAクラスⅡ分子の抗原情報を元に、ヘルパーT細胞がサイトカインを放出した場合です。

さて、インド株の変異『L452R』は、日本に相対的に低い感染率や死亡率をもたらすHLA-A24(日本人の6割が持つHLA-AクラスⅠ分子で、欧米では1割前後であることから、所謂 “ファクターX” の第一候補と考えられている)の細胞性免疫を回避する( “マジックハンド” の形状が合わない等の理由で、抗原提示が上手く行かず、キラーT細胞 がウイルス感染細胞を破壊できない)可能性が有り、注意が必要だとの報道がされました。ここで思い出して欲しいのが、A座には親から受け継いだ もう一つのHLA-A分子が有り、A座が駄目でもB座・C座の “マジックハンド” が弱点をカバーする ということです(2021年の段階ではHLA-A24も更に細分化されて、24:02~24:88の10種類が有ることが分かっている)。 ウイルスへの感染又はワクチン接種によりDR座 ・DQ座・DP座のクラスⅡ分子が働き出せば、いよいよ体内に免疫グロブリン(抗体)が誘導されます 。

複雑が故に時に白血病患者を苦しめる免疫機構ですが、私は その “多重防御システム” の可能性を信じて、アスリートの皆さんを暖かく見守りたいと思っています。医療現場で奮闘中の皆さんだって、彼女の復活を応援したいに違いありません。

※誤字脱字を修正しました。

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